東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)239号 判決 1989年9月26日
原告 前田義夫
被告 ウイルコム プロダクツ インコーポレーテッド
主文
特許庁が昭和五六年審判第一七〇三一号事件について昭和六三年八月四日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決に対する上告のための附加期間を九〇日と定める。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
主文一、二項同旨の判決
二 被告
「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決
第二請求の原因
一 特許庁における手続の経緯
原告は、その構成を別紙(一)のとおりとし、指定商品を(旧)第六九類「電気通信機、電気医療器、電気測定器、電気絶縁物、絶縁電線並にその各部」とする登録第五〇〇二四七号商標(昭和三二年四月一七日設定登録、以下「本件商標」という。)の商標権者であるが、被告は、昭和五六年八月一七日、商標法五〇条の規定に基づき、本件商標の指定商品中「電気通信機並にその各部」についての商標登録の取消しを求める審判を請求し、特許庁は、同請求を同年審判第一七〇三一号事件として審理したうえ、昭和六三年八月四日、本件商標の指定商品中「電気通信機並にその各部」につきその登録を取り消す旨の審決をした。
二 審決の理由の要点
1 本件商標の構成、指定商品、設定登録日は前項記載のとおりである。
2 請求人(被告)は、本件商標の指定商品中「電気通信機並にその各部」につき、不使用を理由として、商標法五〇条による商標登録取消しの審決を求め、これに対し、被請求人(原告)は、被請求人から本件商標及びこれと連合関係にある登録第七二〇八九〇号の商標(以下「甲商標」という。)の通常使用権の許諾を受けた三洋精工株式会社において、本件審判の請求の登録(昭和五六年一〇月九日)前三年以内に、同社の製品(トランジスタラジオ、ラジオ付カセツトレコーダー等)及びその包装函、取引書類、英文カタログ等に本件商標と実質的に同一の「WILCO」の文字を横書きにしてなる商標及び甲商標を使用しているとして、審判請求不成立の審決を求めた。
3(一) 本件商標及びこれと連合関係にある甲商標の構成はそれぞれ別紙(一)、(二)のとおりであり、また、被請求人提出の書証に表示された商標は右甲商標及び別紙(三)のとおりの構成の商標(以下「乙商標」という。)であることが認められる。
(二) そこで、職権をもつて特許庁備付けの商標登録原簿を調査するに、甲商標の商標権は、昭和六一年九月二六日存続期間満了により消滅し、その抹消の登録が昭和六三年二月一二日になされていることが明らかであるから、甲商標の使用は商標法五〇条二項括弧書きの連合商標についての特例を適用すべき場合には該当しない。
(三) また、乙商標と本件商標とは、その構成、態様を異にし、同一とはいえないので、その使用をもつて本件商標を使用したものということもできない。
4 よつて、本件商標は、日本国内において継続して三年以上、指定商品中の「電気通信機並にその各部」について使用されていなかつたものと認めざるを得ず、かつ、不使用について正当な理由があるものとも認められないので、商標法五〇条の規定により、その指定商品中「電気通信機並びにその各部」につき、その登録を取り消すべきものである。
三 審決を取り消すべき事由
審決の理由の要点1、2及び3(一)は認める。3(二)のうち、甲商標の商標権が審決指摘のとおりに消滅し抹消登録されていることは認めるが、その余は争う。3(三)及び4は争う。審決は、商標法五〇条二項括弧書き(連合商標についての特例)の適用に関する判断を誤り(取消事由(1))、かつ、本件商標と乙商標との同一性に関する判断を誤つた(取消事由(2))。
1 本件商標及びこれと相互に連合商標となつている登録商標である甲商標の通常使用権者である三洋精工株式会社は甲商標及び乙商標を本件審判の請求の登録(昭和五六年一〇月九日)前三年以内に、日本国内において、本件審判の請求に係る指定商品(電気通信機であるラジオ、ラジオ付カセツトレコーダー)について使用している。
2 取消事由(1)
前記甲商標の使用につき、審決が、商標法五〇条二項括弧書き(連合商標についての特例)が適用されない旨判断した(審決の理由の要点3(二))のは誤りである。
(一) 商標法五〇条二項括弧書きは、取消請求された登録商標以外にこれと相互に連合商標となつている他の登録商標がある場合には、審判請求の登録前三年以内に、取消請求された登録商標及びこれと連合関係にある他の登録商標のうち、いずれか一つでも使用している事実があれば、取消請求に係る商標登録の取消を免れるというものであるところ、本件においては、その要件をすべて充足しているものであるから、連合商標についての特例の適用が排除されるべき理由はない。のみならず、本件のような場合(甲商標に係る商標権は、本件審判請求の登録前三年間は勿論、登録後約六年もの間存続していたのである。)には、審決のように解するとすれば、原告には何ら責任のない審判の審理期間の長短という事情により右特例の適用が左右されることになるのであつて、その不当なことはいうまでもない。
(二) 被告は、右特例が、取消請求された登録商標と連合関係に立つ他の登録商標を保護するためにのみあるかの如く主張するが、右特例は、取消請求の対象たる登録商標の保護のため、すなわち、取引の実際においては、登録商標の態様に多少の変更を加えて使用されることがむしろ通例であることに鑑み、登録商標を使用していなくても、その類似範囲内にある他の連合商標を使用しておれば登録商標の維持保有を認めようとする趣旨を含む規定であるから、右被告の主張も不当である。
3 取消事由(2)
前記乙商標の使用につき、審決が、乙商標と本件商標とは同一でないから右使用をもつて本件商標の使用とはいえない旨判断した(審決の理由の要点3(三))のは誤りである。
(一) 商標法五〇条にいう「登録商標の使用」とは、登録商標と全く同一又は相似形の商標を使用する場合に限られず、これと社会通念上同一のものと認識される商標を使用する場合を含むものである。しかるところ、乙商標は、別紙(三)のとおり、英文字大文字の「WILCO」の五文字をゴシツク体で横書きしたものであり、本件商標は、別紙(一)のとおり、英文大文字の「WILCO」の五文字を「W」のみをやや大きく表示して横書きにし、「W」の右下端から右方へ他の文字の下部を通るやや湾曲した線を引き、その線の右端を上方へ立ち上らせ、かつ、右方向に小さく半円状を画いてなるものであつて、両者の差異は、文字下方から右端で上方へ立ち上つた線の有無だけである。そして、本件商標にみられる線が、外観上、「WILCO」の文字を強調し、商標全体としての左右の均斉を図るためのものにすぎないことは容易に理解できるところであるし、これのみが独立して看者の注意を強く引くこともなく、また、その有無によつて称呼が変化するものでもないから、両商標が社会通念上同一のものであることは明らかというべきである。
(二) 被告は、本件商標にみられる線は、英文字大文字の「WILCO」に英文字大文字若しくは小文字の「s」、「p」又はギリシヤ文字の「∫」、「ρ」を加えたものであるから著しく外観を異にするのみならず、「ウイルコス」又は「ウイルコツプ」との、乙商標とは異なる称呼を生ぜしめるものである旨主張するが、別紙(一)によつても明らかなとおり、右線における右端の立ち上り部分は一定の文字として判読できるようなものではなく、判読できない文字を加えた称呼が生ずる筈もないから、右被告の主張が失当であることも明らかである。
第三請求の原因に対する認否及び被告の主張
一 請求の原因一、二及び三の1は認め、三の2、3は争う。
二 審決の認定判断は正当である(なお、審決の理由はすべて援用する。)。
1 取消事由(1)について
(一) 商標法五〇条二項括弧書きは、取消請求された登録商標と相互に連合商標となつている他の登録商標がある場合に、当該「他の登録商標」を保護することを目的とした規定である。すなわち、右「他の登録商標」の類似範囲は、取消請求された登録商標の存在により明確化される等して防護されているところ、右規定は、このような機能を保護するために、特例として、「他の登録商標」が使用されている限りにおいて、使用されていない取消請求に係る登録商標をもこれを存続させるものとしたものであり、また、このような場合には、取消請求に係る登録商標を取消してみたところが、これと連合関係にある「他の登録商標」が存続している以上、取消しを請求した者はその商標を使用することはできないから、取消しの実益がない点も考慮されたものである。
(二) しかして、商標法においては、現状の法律状態を考慮して事実認定等を行うことが法目的に沿うところであるから、同法五〇条の取消要件の有無は審決時において判断されるべきであるところ、本件においては、審決の時点で、甲商標の商標権が既に存続期間満了により消滅し抹消登録もなされているのであるから、保護の対象である連合商標自体が存在せず、したがつて、商標法五〇条二項括弧書きの特例適用の必要がなくなつているものであることは明らかである。また、被告は、商標登録出願を出願中であるところ、本件商標を引用して拒絶理由通知を受けたものであるが、これと連合関係にある甲商標が消滅している以上、本件商標の取消しにより右拒絶理由を解消し得るという実益を有するのであるから、本件において、右特例の適用がないとした審決の判断に誤りはない。
(三) 原告は、右特例が、取消請求された登録商標の保護のためにも規定されたものである旨主張するが、連合商標は互いに分離移転することが禁じられている以外には通常の登録商標と全く同じものであり、当然、その使用義務についても個々に存するものであるから、使用しない登録商標についてまで保護すべき必要は元来存在しないというべきであるし、商標権者は、その登録商標の類似範囲について禁止権を有するのみで使用権を有しないのであるが(商標法二五条、三七条、五一条参照)、連合商標はその登録により、かかる類似範囲に属する商標について、これを積極的に使用し得るようにする目的でなされるものであつて、登録商標の保護のためになされるものではないから、原告のように解すべき根拠はない。
2 取消事由(2)について
(一) 商標法五〇条にいう「登録商標の使用」を原告主張のように解すべきことは争わないが、本件商標は、英文字大文字の「WILCO」の五文字に英文字大文字若しくは小文字の「s」、「p」又はギリシヤ文字の「∫」、「ρ」を加えたものである。すなわち、原告主張の本件商標の「線」は、右文字とその左下端を延長して左方へ各文字の下部を通り「W」の右下部へ連続させてなるもので、「文字及び線」というべきものであり、そのうち「文字」は、「W」を除く他の四文字よりやや大きく構成され、文字間隔も他と同様の間隔で配列されているから、明らかに商標を構成する文字で、しかも他の文字と一連の構成をなすものとして認識されるものであり、その呼称も、「ウイルコス」又は「ウイルコツプ」との乙商標とは異なる称呼を生ぜしめるものである。したがつて、本件商標と乙商標とでは、その外観及び称呼が全く異なり、社会通念上も同一のものということはできない。
(二) 原告は、右のうち文字部分は一定の文字として判読し難い旨主張するが、それが前記四つの文字のうちいずれであるかは必ずしも特定し難いものの、少なくとも、本件商標に接した需要者等が、これを右文字のうちのいずれかと認識し、その認識したところに従つてこれを判読できることは明らかである。また、原告は、前記「線及び文字」を、商標全体としての左右の均斉を図るための線にすぎないとも主張しているが、線の左端部が「W」の文字に右下部に連続しているのに対し、右端部はこれと対称的にはなつておらず、これが文字を意識して構成されていることは明らかというべきであるから、原告の主張はいずれも失当である。
第四証拠関係<省略>
理由
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯及び本件商標の構成、指定商品等)、二(審決の理由の要点)は当事者間に争いがなく、また、甲、乙商標の各構成がそれぞれ別紙(二)、(三)のとおりであること、本件商標及びこれと相互に連合商標となつている登録商標である甲商標の通常使用権者である三洋精工株式会社が甲商標及び乙商標を本件審判の請求の登録(昭和五六年一〇月九日)前三年以内に、日本国内において、本件審判の請求に係る指定商品(電気通信機であるラジオ、ラジオ付カセツトレコーダー)について使用していることについても当事者間に争いがない。
二 取消事由に対する判断
1 まず、取消事由(1)について判断する。
(一) 前記審決の理由の要点に徴すれば、審決が、甲商標の商標権が、本件審判請求の登録後審決前の、昭和六一年九月二六日に存続期間満了により消滅し、昭和六三年二月一二日にその抹消の登録がなされたことのみを理由として、甲商標の使用に商標法五〇条二項括弧書きの適用がないものと判断したものであることは明らかであり、また、右甲商標の消滅等に関する事実は当事者間に争いがない。
(二) そこで、審決の右判断の当否について検討するに、前記のように、いずれも登録商標である本件商標と甲商標が相互に連合商標の関係にあり、甲商標がその通常実施権者により、本件審判請求の登録前三年以内に、日本国内において、同請求に係る指定商品(成立に争いのない甲第三号証の一によれば、右指定商品は甲商標の指定商品中に含まれていることが認められる。)について使用されていることは当事者間に争いがないから、本件商標の商標権者である原告は、商標法五〇条二項所定の登録商標使用の要件を証明し得た者として、本件審判請求を免れることができることは同項の文言上明らかである。すなわち、商標の使用関係について詳言すれば(なお、本件では、前記のように、甲商標が本件審判請求に係る指定商品について使用されていることは当事者間において争いのないところであるから、以下においては、このことを前提として検討することとし、特に指定商品についてはふれない。)、不使用による登録取消しの審判請求の登録三年以内に同法五〇条二項括弧書き(以下、単に「括弧書きの規定」という。)にいう「当該登録商標」(本件では、登録取消しの対象とされている本件商標)(以下、便宜「第一商標」という。)を使用している事実がなくても、同じ時期に、これと相互に連合商標とされている「当該他の登録商標」(本件では甲商標)(以下、便宜「第二商標」という。)を使用している事実があれば、第一商標を使用している事実があるものとみなされ、すなわち使用が擬制され、商標権者は第一商標の不使用を理由とする登録取消請求を免れることができ、その結果第一商標は存続するものと扱われるものである。このことは、同法五〇条二項の文理に照らして明らかなところである。
(三) 被告は、括弧書きの規定の連合商標についての特例は、専ら、第二商標(甲商標)保護のために存するのであるから、第二商標の商標権が消滅した以上、使用していない第一商標(本件商標)の登録を維持する必要がない旨主張する。
しかし、前記のとおり、法律の規定により第二商標使用の事実により、第一商標の使用の事実が擬制され、その結果、第一商標は存続するものと扱われることになるのであるから、その後に至り第二商標の権利が存続期間満了により将来に向つて消滅し、その設定登録が抹消されたからといつて、特段の規定がない以上、かかる後発的事由により、第一商標について一旦擬制された使用の事実が遡及的に消滅すると解する余地がないことは法律上当然のことである。加えて、連合商標という観点から考察するも、連合商標関係にある商標は分離移転禁止の制限(同法二四条二項)を受けるほかは、独立の商標と変わるところはなく、他の商標について生じた事由の影響を受けることはないのであるから、第二商標について生じた事由(商標権の消滅)が既に使用の事実が擬制された第一商標の存続に影響を与えることはないものと解するのが相当である。
たしかに、被告の主張するように、括弧書きの規定は、第一商標と相互に連合商標関係にある第二商標の類似範囲を保護する機能を有することは否定し得ないのであるが、仮に右規定の立法趣旨がこの点にあつたとしても、第二商標の使用の事実により第一商標について使用の事実を擬制する効果が一旦発生した以上、それはあくまで第一商標に与えられた効果であつて、第二商標の存続いかんにかかわりなく存続するものと解すべきことは既に述べたとおりである。
のみならず、括弧書きの規定の立法趣旨が右の点にあつたか否かは必ずしも定かではなく、むしろ、連合商標相互間に求められる類似性(同法七条一項)、分離移転禁止による結合性(同法二四条二項)の故に、商標権者が連合商標関係にある一の商標を現に使用している事実があれば、他の商標についても使用する意思があるものと認めてその使用の事実を擬制したものとも解せられるのであり、そうであれば、一旦擬制された使用関係が他の連合商標の権利の消滅により消長をきたさないのは当然のことといえるのである。
したがつてこの点に関する被告の主張は採用できない。また、被告は、同法五〇条二項の要件の有無は審決時において判断されるべきであると主張するが、審決時において判断すべきは、取消審判の請求の登録前三年以内に、取消請求の対象となつた登録商標又はこれと相互に連合関係にある他の登録商標の使用をしている事実があるか否かであり、既に述べたように、取消対象とされた本件商標と連合商標の関係にある甲商標の使用の事実により本件商標の使用の事実が擬制され、この擬制の効果は、甲商標の消滅にもかかわらず存続するものであるから、審決時においても、本件商標について同項の要件を具えているものということができる。被告の主張は、甲商標の商標権消滅により本件商標に生じた使用擬制の効果も消滅することを前提とするもので採用することができない。被告の拒絶理由解消に関する主張も右同様の前提に立つものでやはり採用することができない。その余の被告の主張についても、前記解釈を覆し、被告主張のように解すべき根拠となるものではない。
(四) したがつて、甲商標の存続期間満了による商標権の抹消登録を理由に、括弧書きの規定の適用を否定した審決の判断は誤りである。
2 次に、本件においては、取消事由(2)にも理由があることが明らかである。すなわち、
(一) 前記のとおり、乙商標がその通常実施権者により本件審判請求の登録前三年以内に、日本国内において、同請求に係る指定商品について使用されていることは当事者間に争いがなく、それぞれ本件商標と乙商標の構成を示すものであることにつき当事者間に争いのない別紙(一)及び(三)によれば、乙商標(別紙(三))の外観は、英文字大文字の「WILCO」の五文字をゴシツク体で横書きしてなるものであるのに対し、本件商標(同(一))は、英文大文字の「WILCO」の五文字を「W」のみを他の文字より少し大きく表示して横書きし、「W」の右下端から右方へ他の文字の下方にやや湾曲した線を引き、その線の右端を上方へ立ち上らせ、かつ、右方向に小さく半円状の弧を画いてなるものであつて、「WILCO」の五文字については乙商標と字体等をやや異にするものの、同一字形、同一配列をなしており、右線様の部分についても、その態様からして、右「WILCO」の文字部分を強調し、かつ、商標全体の外観上の左右のバランスを図るためのものにすぎないものと認めるのが相当である。そうであれば、両者は、外観において著しく相違するものではなく、その称呼も共通にするもの(通常「ウイルコ」の称呼を生じるものと認められる。)というべきであるから、両者は、社会通念上同一と認めることができ、したがつて、これに反する審決の認定判断は誤りというべきである。
(二) 被告は、本件商標にみられる線は、英文字大文字の「WILCO」に英文字大文字若しくは小文字の「s」、「p」又はギリシヤ文字の「∫」、「ρ」を加えたものであり、乙商標と著しく外観を異にするのみならず、称呼においても、「ウイルコス」又は「ウイルコツプ」との、乙商標とは異なる称呼を生ぜしめるものである旨主張するが、別紙(一)によつても明らかなとおり、本件商標に加えられた線様の部分は、その右端部において半円状の弧を描いているものの、これを加えて線全体を観察しても、明瞭な字形をなしているものではなく、これを需要者等が一般に被告主張のような文字であると認識するとは到底解しがたいものであつて(なお、仮に、被告主張のギリシヤ文字として判読したとしても、日本国内では、これを正確に称呼し得る者は多くないと思われる。)、本件商標全体を観察すれば、かえつて、前記認定のように解すべきであることは明らかであるから、この点に関する被告の右主張は採用し難い。
3 そうであれば、原告主張の取消事由(1)、(2)はいずれも理由があるから、審決は違法として取消を免れないものである。
三 よつて、原告の本訴請求を正当として認容し、訴訟費用の負担及び上告のための附加期間の付与につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、一五八条二項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 松野嘉貞 舟橋定之 小野洋一)
別紙
(一)
(二)
(三)